シャツの素材として人気の「シャンブレー」。
その独特な風合いや、着回しの良さに惹かれて複数枚持っている方も少なくないかと思います。
しかし「シャンブレー」の見た目はわかっていても、実際どういった生地なのか、その生地にどういった歴史があるのかご存知でしょうか?
今回は、カジュアルさがありつつも品が感じられる「シャンブレー」の歴史と魅力に迫ります。
1 そもそも「シャンブレー」とは?
1-1 色糸とさらし糸を使って平織りした生地のこと
シャンブレーとは、縦糸に色糸を使い、横糸にさらし糸と呼ばれる白糸を使って平織りした生地のことを言います。しかし近年では、コストや生産効率上で縦糸に白糸を使い、横糸に色糸を使うという今までとは逆の製織方法も多くなっています。
生地はコットン(綿)100%で織られることがほとんどですが、中にはリネンと綿の混紡したものやリネン100%の素材のものなど、様々なシャンブレー生地が存在しています。
生地の仕上がりに関しては薄めで、丈夫で通気性がよく軽い着心地であるため、シャツなどのトップスに使用されることが主流。
さらに、「カレンダリング加工」と呼ばれる熱と圧力をかける加工を施すことによって表面に光沢感が現れ、シャツだけでなくレースや刺繍に用いられ、ハンカチとしても使われます。
色糸にはインディゴが使用されることが多くブルー系のものが中心ですが、赤系や黒系などのシャンブレー生地も多く存在しています。
1-2 「シャンブレー」の語源は発祥地
シャンブレーの起源は、フランス北部の「カンブレー(Cambray)」の英訳。
語源はその名の通り、その発祥地の名前からきています。
地域によってその呼び方は異なり、「カンブレー(Cambray)」はフランス語。日本では英語での「シャンブレー(Chambray)」とよばれ、イギリス圏では「カンブリック(Cambric)」とよばれています。
そのほかの地域ではフランス語で「バティスト(Batiste)」と呼ばれることもあるのだそうです。
2 シャンブレーの持つ3つの魅力
2-1「シャンブレー・カラー」とも呼ばれる霜降り感
シャンブレーの生地は、色糸が青なら水色、黒ならグレー、赤ならピンクというように、発色が中和され遠くから見ると淡い色合いに見えます。さらに色糸と白糸が組み合わさることにより、霜が降りたような白い斑点模様が生まれるのが特徴です。
このような異色交織の技法で得られるカラーは「シャンブレー・カラー」、「シャンブレー効果」、「霜降り効果」とも呼ばれています。
このシャンブレー・カラーは、織ってから一気に染める後染めの生地の均一な印象に比べ、独特の雰囲気や風合いがあるのが特徴で、落ち着いた雰囲気を与えてくれるシャンブレー生地の一番の特徴と言えます。
織り方は違えどシャツでおなじみの「オックスフォード」も、縦に色糸、横に白糸を使用したし「シャンブレー・カラー」が一般的です。
2-2 両方に色糸を使用した際の魅力的な光沢感
縦糸のみに色糸を使用する通常のシャンブレーがある一方で、縦糸に青、横糸に赤などと、それぞれ異なる色糸を使用して織ったシャンブレーも存在します。
その場合、光を受ける角度によって色や見え方が変わる「玉虫効果」を得られ、より魅力的な生地になります。
光沢感と張りが特徴の「タフタ」にも、この技法を用いた種類が存在しています。
2-3 幅広いコーディネートマッチするデザイン
一見デニムのようなカジュアルさが感じられるのに、どこか上品に見えるシャンブレー。
シャンブレーは、着心地だけでなく、見た目も程よい品のよさと味感のバランスが絶妙と言われています。
何かを作業する時にも作業着として着ることができたり、さらっと1枚で着て休日外出したり、あるいはビジネスカジュアルで着ることができたりと、1枚あると様々な場面で活躍してくれる1枚です。
3 「シャンブレー」の歴史
3-1フランス北部の都市がシャンブレーの起源
シャンブレーの歴史を遡ると、なんと起源は1595年(16世紀)とのこと。フランス北部のカンブレー(Cambray)とよばれる都市が発祥とされます。
シャンブレーは、多くのフランスデニム生地に変わる軽さが特徴の生地として世に出ました。当時はシャンブレーはリネンで織られることが主流でしたが、その後デニム同様、コットンの糸から織られることが主流となりました。
そのころからシャンブレーは、デニムとの深い関わりがあるのですね。
3-2 元は牧師などの聖職者向けのユニフォーム
都市カンブレーには、カンブレー司教区の司教座が置かれており、当時は絶大な権力を誇る程でした。
そういった繋がりもあったからか、シャンブレーは牧師などの聖職者のウェアとして使用されていたそうです。
シャンブレーはデニムよりも軽く通気性の良い生地であるため、聖職者のユニフォームだけでなくどんなアイテムにも適用可能とわかったフランス人は、ベッドカバーやハンカチ、下着にまで使用するようになったそう。
3-3 アメリカに伝播し、ミリタリーウェアとして着用される
軽く通気性のあるシャンブレーは、20世紀を迎えるころにアメリカ軍のミリタリーウェアとして採用されました。例をあげると、1901年当時のアメリカ海軍のワークウェアはシャンブレーシャツにダンガリージャケットを羽織り、デニムパンツを履くというスタイルでした。
しかし、アメリカ海軍の服装規則は変化していったのに対し、1941年に海軍下士官と事務職両方に適したユニフォーム(ワークシャツ)として引き続きシャンブレーシャツが着用されるようになったそう。
このような急速な普及により、丈夫な作業服としてアメリカ全土に広まったシャンブレー生地は、デニムとともに「ブルーカラー(青襟)」として労働者を表す言葉となりました。
3-4 現在ではシティウェアとして浸透
ワークウェアとしての着用が一般的であったシャンブレーのシャツがシティウェアとして取り入れられるようになったのは、1960年後半。
当時ベトナム戦争が泥沼化する中、愛と平和を訴える若者たちの間で、ワークシャツに花やピースマークなどのモチーフの刺繍を施したリメイクが流行しました。
それによって、シャンブレーを含めた多くのワークウェアがファッションとして着用されるようになったのです。
4 シャンブレーと他素材との違いは?
4-1 シャンブレーとデニムの違い
シャンブレーは見た目が似ていることから、発祥当時からデニム生地と比較されていた背景があります。
見た目が似ている上に、デニムはシャンブレーと同じく縦糸に色糸、横糸に白糸を使用しているため、混同されやすい生地です。
しかし、そんな混同されやすいシャンブレーとデニムはそもそもの織り方が違います。
縦糸と横糸を交互に浮き沈みさせる「平織り」で織られているシャンブレーに対し、デニムは「綾織り」。「綾織り」とは、縦糸が2〜3本の横糸の上を通過した後、1本の横糸の下を通過することを繰り返す織り方のことです。
デニムは、触ってみると縫い目が斜めで、シャンブレーよりも生地も厚めで伸縮性があります。
4-2 シャンブレーとダンガリーの違い
そもそも「ダンガリー」とはデニムの一種で綾織で織られていますが、シャンブレーやデニムとともに混同されやすい生地と言われています。
デニムやシャンブレーが縦糸に色糸、横糸に白糸を使用するのに対し、ダンガリーは逆の縦糸に白糸、横糸に色糸を使用しています。これにより通常のデニムよりも色味が薄く、少々荒い感じの印象を受けます。
ちなみに「ダンガリー」の語源は西インドの「ダングリ(Dungri)」で織られた粗野な綿織物に由来していると言われています。
4-3 コットンとリネン(麻)のシャンブレーの違い
多くのシャンブレーはコットン素材からできています。コットンは吸水性、保湿性のほか、通気性にすぐれています。また水に濡れると繊維の強度が上がるため、洗濯にも強い素材と言われています。
さらにコットン素材のシャンブレー生地は、上品で奥行きのある印象を作ることができます。
一方、リネン素材はコットンと同じく通気性に優れています。さらに、程よいシャリ感があることでひんやり感を感じることもでき、夏に最適な素材と言えます。
生地の見た目もコットンとは違って、生地に糸が溜まったように見える「ネップ」、「フシ」が入るのが特徴です。リネン素材のシャンブレー生地は、夏にぴったりのカジュアルな印象を作ることができます。
さらに、リネン素材のシャンブレー生地は洋服だけでなくタオルケットや寝具にも使用され、熱帯夜が続く夏の夜も快適にしてくれます。
5 色落ちしやすいシャンブレーのお手入れ方法は?
シャンブレー素材はワークウェアとして使用されていたように、生地が密い織られており、丈夫な点が特徴であるといえます。
しかし、濃い色だと色落ちしやすいので気をつけながら洗いましょう。
シャンブレー素材を洗濯する場合は、色落ちを防ぐために以下の点をチェックすることをおすすめします。
シャンブレー素材を洗濯する際のポイント
- 洗濯表示をチェックし、洗濯機で洗えるかを確認する
- 洗濯機使用可であれば洗濯ネットに入れて、短時間コースや弱モードに設定
- 洗剤は、できれば中性のホームクリーニング洗剤がおすすめ
- 洗濯終了後は、優しく手で水気をとって日陰に干しする
まとめ
今回は、誰もが1枚はもっておきたいシャンブレーシャツの素材である「シャンブレー」についてご紹介しました。
シャンブレー生地は、元をたどれば牧師から始まり、海軍のユニフォームを経て平和を訴える若者たちによってライフスタイルに取り入れられるようになった、というとても不思議な歴史をもっています。
そんな歴史や分かりづらいデニムなどとの違いを知った上で、改めて自分のクローゼットを見てみると、今までデニムシャツだと思っていたアイテムが実はシャンブレーシャツだった、なんてこともありえるかもしれませんね。