私たちが普段何気なく身につけている衣服を作る上で欠かせない存在といえば、コットン(綿)です。
そんなコットンを生産している国は、なんと世界に100ヶ国以上あることをご存知でしたか?
栽培する環境が違えば当然ながら、品種やコットン自体の質感なども変わってきます!一口に「コットン」と言ってもその種類は非常にたくさんあるのです。
普段は「コットン」という単語で一括りにして考えてしまいがちですが、品種ごとの肌さわりや質感といった特徴を比較してみるのも面白いもの。
今回はそんな身近なコットンの種類に関する基礎知識やもちろん、意外と知られていない品種に至るまで詳しくご紹介いたします。
1 コットン(綿)は毛足の長さによって3つに分類される
コットンは、毛足の長さ(繊維の長さ)によって短繊維種、中繊維種、長繊維種の3つに分類されます。
一般的に、毛足が長ければ長いほど高級なコットンとして扱われ、逆に毛足の短いコットンは安価で手に入りやすくなります。
1-1 短繊維種
短繊維種とは、その名の通り毛足の短いコットンのことです。
明確な定義はありませんが、一般的には10〜20mm前後が短繊維種として扱われています。しなやかさなどには欠けますが、安価な上に繊維自体が太く丈夫であるという点が大きな特徴です。
繊維の短さゆえに紡績に向かないため、基本的にはクッションなどの中綿として利用されます。
1-2 中繊維種
中繊維種とは、毛足の長さが短繊維種と長繊維種のちょうど中間に位置するコットンのことです。
一般的には、21〜28mm前後が中繊維種として扱われていますが、こちらも明確な定義があるわけではありません。市場に流通するほとんどの綿製品は、この中繊維種のコットンが使用されています。
後ほどご紹介するアップランドコットンは、中繊維種の代表格です。
長繊維種と比べて肌さわりなどは劣るものの、可もなく不可もない一般的な品質のコットンと言えるでしょう。
1-3 長繊維種
長繊維種とは、毛足の長い高級なコットンのことです。
繊維の長さは30mm以上のものがほとんど。希少性も高く値段も前述した2種よりもかなり高くなります。
生地として仕立てた時の肌さわりは滑らかで尚且つシルクのような上品な光沢が生まれます。
ちなみに後ほどご紹介する「世界3大コットン」は、いずれも長繊維種の中でもトップクラスとして位置付けられる「超長綿」と呼ばれる最高クラスのコットンです。
2 知っていれば綿博士?世界の有名なコットン品種たち
先ほどご紹介した、短繊維種、中繊維種、長繊維種の3つはあくまでコットンにおける大分類のお話。
ここからは、より具体的なコットンの「品種」についてそれぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
2-1 シーアイランドコットン(海島綿)
シーアイランドコットン(海島綿)は、美しいカリブ海の上に浮かぶ西インド諸島でしか生産することのできない長繊維種のコットンです。
その希少性は非常に高く、シルクを思わせる上品な光沢とカシミアのような滑らかな肌さわりを併せ持つことから「幻のコットン」と称されることもしばしば…。
ちなみにかつてのイギリス王室では、綿製品はシーアイランドコットンでなければならないというしきたりまであったほど。
現在も綿市場全体から見た時に、10万分の1にも満たないわずかな生産量であるため、シーアイランドコットンを使用した綿製品の値段は必然的に高値になる傾向があります。
2-2 インドコットン
インドコットンとは、世界最大のコットン耕地面積を有するインドで栽培される綿花の総称です。
ナチュラルかつ涼しげな風合いはもちろんのこと、通気性、吸汗吸湿性にも優れており、蒸し暑い日本の夏の衣類にもうってつけの素材と言えるでしょう。
廉価で入手しやすいというメリットがありますが、その分他のコットンよりも強度が低いため、無理に引っ張ったり伸ばしたりすると破けてしまう可能性もあります。
2-3 アップランドコットン
コットン大国として知られるアメリカにおいて、最大の生産量を誇るのがこのアップランドコットンです。
アメリカにおける綿の代名詞的存在とも言えるこのアップランドコットンは、繊維強度にも優れており日本ではニットウェアの素材としても重宝されています。
ちなみに今では世界のコットン生産の約90%は、このアップランドコットンが占めていると言われています。
安定的に高品質なこのアップランドコットンを生産できる盤石な生産体制こそ、アメリカをコットン大国へと押し上げた大きな理由の1つと言えるでしょう。
2-4 デシコットン
デシコットンとは、アジア周辺諸国の在来種として知られる廉価な短繊維種のコットンです。
毛足の短さゆえに単体では紡績することができないため、クッションの中綿などに用いられることが多いようです。ただし、毛足の長いコットンをブレンドしてから紡績されることもよくあります。
低価格かつガーゼのようなラフな肌さわりが特徴的ですが、どちらかというと品質の低いコットンに分類されるようです。
2-5 ペルーコットン
ペルーコットンとは、その名の通り南アメリカのペルーを原産地とする長繊維種のコットンの総称です。
その歴史は他のコットンと比べても非常に長く、なんとインカ帝国時代から栽培されていたと言われています。
後ほどご紹介するエジプト産の高級品種であるギザコットンにこそ劣るものの、毛足が長く強度にも優れており、高品質なコットンとして扱われています。
生地として仕立てることで、適度な光沢を放つ独特の風合いに仕上がります。
2-6 ジンバブエコットン
ジンバブエコットンとは、アフリカ・ジンバブエ地方で栽培されるコットンの総称です。
通常、コットンを採取するときはコットンピッカーと呼ばれる専用の機械を使用します。一方で、このジンバブエコットンの場合は、人の手によって一つ一つ丁寧に摘まれているのです。
そのため繊維が傷むことも少なく、しなやかで丈夫な質の高い糸を作ることができると言われています。
ハイクオリティなドレスシャツ、デニムパンツの素材として使われることもあるようです。
3 特に稀少性の高いことで知られる「世界3大コットン」
たくさんあるコットンの品種ですが、中でもギザコットン、ピマコットン、新疆綿(しんきょうめん)の3種は「世界3大コットン」とも呼ばれています。
いずれも長繊維種のコットンに分類されることから希少価値が高く、綿市場全体のわずか数%程度しか栽培されていません。
そのためこれらのコットンを使った製品は、必然的に値段も高値になる傾向にあります。
3-1 ギザコットン
エジプトで栽培されるコットンの多くは品質が高いことで世界的にも有名です。
中でもナイル川流域の一部でしか収穫できない「ギザコットン」は特に高品質で、尚且つ希少性が高いことでも知られています。
別名「超長綿」とも呼ばれるこの品種は、繊維1本1本が非常に長いという点が大きな特徴。上品な光沢感と優しい肌さわりがたまらない素晴らしい生地に仕上がります。
中でも最高品質のギザコットンは「GIZA45」と呼ばれ、シルクにも似た極上の風合いを醸し出してくれます。
まさに高級コットンにおける代名詞的存在と言えそうですね!
3-2 ピマコットン
ピマコットンは、アメリカで栽培される最高品質のコットンです。
ギザコットンと同様に繊維1本1本が非常に長いため、シルクのような光沢とカシミアに匹敵するほどの滑らかな肌さわりのある極上の生地に仕上がります。
ちなみにアメリカの認証機関であるスーピマ協会の基準をクリアした製品は「スーピマコットン」と呼ばれており、こちらの方が認知度としては高いかもしれませんね。
希少価値の高いコットンであることは間違いありませんが、最近では大手ファストファッションブランドからもピマコットンを使用した商品が展開されるようになりました。
各社、生地を薄くしてピマコットンの使用量を抑えるなど、できる限りコストを抑えるための工夫をしているようです。
3-3 新疆綿
新疆綿(しんきょうめん)は、中国のウイグル(新疆)自治区で栽培される高品質のコットンです。
日本国内ではギザコットンやピマコットンばかりがクローズアップされますが、実はこの新疆綿も実に素晴らしいコットンであり、アパレル業界なら知らない人は恐らくいません。
先ほどご紹介したピマコットンよりも毛足が長いため、「幻のコットン」と呼ばれることもあります。
思わず頬ずりしたくなるほどの滑らかな肌さわりは、とてもコットンとは思えません。
なかなかお目にかかる機会が少ないかもしれませんが、新疆綿を使った製品をどこかで見かけた時には、ぜひ一度手で触れてその滑らかな感触を確かめてみてください。
4 巷で見かける「オーガニックコットン」って結局何?
大手衣料品メーカーが綿製品を宣伝する際に「オーガニックコットン」という単語がよく用いられます。
しかし、オーガニックコットンって一体何なのだろう?と思われた方も多いはずです。実はオーガニックコットンとは、GOTSと呼ばれる認証機関の定める厳格な基準をクリアしたコットンにのみ与えられます。
農薬の使用をできる限り抑え、人と環境に優しい方法で栽培しているコットンしか「オーガニック」を名乗ることができないのです。
ただし、品質に関しては通常のコットンとほとんど変わりません。
あくまで人と環境に優しい方法で栽培していることを証明するものであり、「オーガニックコットンの方が肌さわりが良い」という意味ではないので注意しましょう。
まとめ
本日は、コットンの種類についてご紹介しました。
コットンはあらゆるファションアイテムを製造する上で基本となる素材です。その種類や特徴について知っておくだけでも、素材や衣服への理解が相当深まります。
もちろん本日ご紹介した品種は、数あるうちのほんの一部に過ぎません。
世界にはもっとマイナーな品種も数多く存在しますが、それはまたの機会にご紹介させていただければと思います。
ぜひ今後は「コットン」という大きなカテゴリーで一括りにするのではなく、「どこの国で栽培された何という品種のコットンなのだろう…?」、といった視点を持っていただければ幸いです。