皆さんは「糸の種類」についてどれくらい知っていますか?
綿糸、麻糸、羊毛を使った糸…といった辺りが思い浮かぶところかもしれません。しかしながら、実は糸の種類は意外と複雑に分類されています。
普段は気にも留めないことかもしれませんが、糸の種類は質感、風合い、強度など様々な面において影響をもたらす重要な要素の1つなのです。
今回は、そんな身近にありながら意外と知られていない「糸」の種類について、繊維について詳しくない方でも理解しやすいようにご説明いたします。
1 糸の種類は「見方」次第で大きく変わる
本当であれば、「糸には種類が○つあり…」と簡単に説明したいところでしたが、糸の種類はそう簡単に分類できるものではありません。
実は、糸の種類は「見方」次第でかなり大きく変わります。
例えば、糸を製造する際の繊維の長さに注目するのであればフィラメント糸とスパン糸。繊維の素材で見るのであれば、天然繊維(綿や麻糸)と化学繊維(ポリエステル糸)等々…、その種類は多岐に渡るのです。
さらにその両方が掛け算され、「天然繊維を使ったフィラメント糸」といった具合に何通りにも種類が出来上がります。
糸の種類は常に複数の分類をまたがるものなのです。
2 繊維の長さによる分類
まず初めに挙げられるのが「フィラメント糸」と「スパン糸」です。この2種類は、原材料となる繊維自体の「長さ」に基づく分類と考えると良いでしょう。
2-1 長繊維糸とも呼ばれるフィラメント糸
フィラメント糸は長繊維糸とも呼ばれ、長さのある繊維を撚り合せたものです。
例えば、天然の繊維であれば蚕の繭から取れる生糸、化学繊維であればレーヨンやナイロンから作った糸がこのフィラメント糸に分類されます。
後ほどご紹介するスパン糸よりも滑らかで美しい光沢を放つという点が特徴です。
2-2 短い糸を集束して作るスパン糸
スパン糸は短繊維糸とも呼ばれ、長さが数センチ程度しかない短い繊維同士を平行に揃えて撚りをかけたものです。
例えば、綿花や羊毛といった短い繊維は絹などと違って繊維1本だけでは糸にならないため、複数の繊維をまとめて糸にする必要があります。
一般的にはこの工程を「紡績」と呼び、紡績を経て作られた糸は「紡績糸(=スパン糸)」と呼ばれます。
3 天然繊維と化学繊維
次は、糸に使われている原材料に基づく分類です。糸には大きく分けて、天然繊維から作られるものと化学繊維から作られるものの2つが存在します。
3-1 綿・麻・羊毛など天然素材を使用した糸
最も基本となるのは天然繊維から作られる糸です。
私たちの衣料品には欠かせない綿(コットン)、麻、絹、羊毛、カシミヤを始めとした繊維は天然繊維に分類されます。植物や動物から採れる繊維は全て天然繊維です。
吸汗吸湿性や保温性に優れている繊維も多く、その特性を生かすことのできるアイテムの素材として使用されます。
3-2 ポリエステルなど化学繊維を使用した糸
一方で、人工的に作られた化学繊維を使用した糸もたくさんあります。
身近なものだとポリエステル、ナイロン、レーヨンといったものが化学繊維に分類されます。一般的には石油から作られるものが多く、撥水性や速乾性など機能性を兼ね備えてるものも多いです。
ただし、最近は化学繊維と天然繊維それぞれのメリットを活かすべく混紡している場合も多く、一概にこの2つに分類できるわけではありません。
4 撚糸と無撚糸
糸の種類の決定づける要素は、繊維長や原材料だけではありません。
糸自体に「撚り」をかけているかどうかもポイントになってきます。ちなみに「撚り」とは糸同士を捻じ合わせる工程のことです。
4-1 糸に「撚り」をかけて作る撚糸
「撚り」をかけて作られた糸は、「撚糸(ねんし)」と呼ばれます。
例えば、単体では細く脆い繊維であっても糸同士を捻り合わせることによって繊維を強化することができるわけです。
また撚りを加えることによって糸自体に表情の変化をつけることができるという点もポイント。撚り合せる糸の素材や太さ(番手)次第で、肌さわり、風合い、強度などが大きく変わります。
4-2 「撚り」をかけずに作る無撚糸
一方で「撚り」をかけずに作られた糸は、「無撚糸(むねんし)」と呼ばれます。
あえて捻り合わせたりせずに作ることで、柔らかく優しい肌さわりの糸に仕上がるという点が大きな特徴の1つと言えるでしょう。
最近は無撚糸ならではの上質な肌さわりを活かした「無撚糸タオル」といった製品も人気のようです。ただし撚りをかけていない分、生地にした時に毛羽が落ちやすいというデメリットもあります。
5 糸の太さ(番手)による分類
糸の太さによっても肌さわりや強度が大きく変わることをご存知でしたか?糸の太さは「番手」と呼ばれ、その太さによって太番手・中番手・細番手の3つに分類されます。
聞きなれない単位かもしれませんが、番手は数字が小さくなるほど太くなり、大きくなるほど細くなると考えておくと良いでしょう。
他にも同じく糸の太さを表す単位として、デニールやテックスと呼ばれる単位も存在しますが、今回は「紡績した糸の太さ」を表す「番手」で統一させていただきました。
5-1 太番手
太番手とは、短い繊維から作られた太めの糸のことです。ちなみに最も代表的な綿糸であれば、20番手以下が太番手として扱われています。
生地に使うと肉厚でしっかりとした生地感を楽しむことができます。
ただし、細番手のような柔らかく繊細な肌さわりではないため苦手な方もいらっしゃるかもしれません。
5-2 中番手
中番手は、太番手と細番手のちょうど中間で「標準番手」とも呼ばれています。綿糸であれば、30〜50番手が中番手です。
3つの中でも一番使用される機会の多い番手かもしれません。
肌さわりも質感もちょうど中間なので、万人受けする糸番手と言えるでしょう。
5-3 細番手
細番手とは、長さのある繊維から作られた細めの糸のことです。綿糸であれば、60番手以上が細番手として扱われています。
原料にもよりますが、比較的高値で取引される傾向にある番手です。
繊維が細く長いため肌さわりがよく、高級なシャツやシーツなどにも使われます。
6 取り除かれる繊維量による分類
糸の中でも「綿糸」は、表面についた余分な繊維を取り除く「カーディング」や「コーミング」と呼ばれる加工が施されます。
この「カーディング」や「コーミング」によって取り除かれる繊維の量によって、綿糸はカード糸・コーマ糸・セミコーマ糸の3つに分類することができます。
6-1 カード糸
カード糸は、「カーディング」と呼ばれる工程を経て作られる糸のことです。表面に付いている余分な繊維を5%ほど削ぎ落としています。
Tシャツを始めとしたカットソーなどにも用いられる最も一般的な糸と言えるでしょう。
質感は若干硬めでしっかりとした肌触りもカード糸の特徴です。
6-2 コーマ糸
コーマ糸は、「コーミング」と呼ばれる工程を経て作られる糸のことです。カーディングよりも削ぎ落とす繊維の量が多く、だいたい20%前後の繊維を取り除きます。
取り除く量が多い分、細く均一で適度な光沢を放つのが特徴です。
カード糸よりも高品質な糸として位置付けられています。
6-3 セミコーマ糸
国際的な基準に、セミコーマ糸という分類はありません。
セミコーマ糸は、日本と中国独自の分類として知られ、ランクとしてはカード糸とコーマ糸のちょうど中間に位置します。
余分な繊維を10%前後落とすことで、コーマ糸よりもコストを抑えつつ、カード糸よりも柔らかい質感の糸を作ることができるという点がメリットです。
まとめ
今回は、意外と知られていない身近な「糸」の種類や分類について詳しくご紹介しました。
糸の種類は簡単に分けられるものではなく、糸の素材、太さ、撚り、取り除かれる繊維量など様々なベクトルを組み合わさせて行かなければならないのです。
その上糸の太さ、撚り、不純物の割合などは基本的に製品表示タグにも記載されていないため、普段はそこまでの情報を知ることもできません。
「糸」はあらゆる衣料品の基本となる素材である分、実はとても奥の深い分野なのです。
店頭に売られている服を手に取った時は、一体どんな糸が使われているのだろう…?と少しでも想いを馳せていだたければと思います。