日本では古くから家庭科の授業でもおなじみの「キルティング生地」。
2枚の布の間に綿や柔らかい羽毛などを挟んで縫い上げた生地は、どこか暖かくほっこりとした雰囲気が印象的ですよね。
伝統的なイギリスのジャケットをはじめ、冬用コートのライナーからバッグに至るまで様々なファッションアイテムに使用されています。
今回は、そんな身近なキルティング生地について意外と知られていない特徴や世界各国の伝統的なキルティングについてご紹介していきたいと思います。
1 そもそも「キルティング」とは?
キルティング(quilting)とは、表地と裏地の2枚の布の間に綿や柔らかい羽毛などを挟んで、串縫いと呼ばれる方法で縫って綿を留める手芸の技法です。
主にダウンジャケットなど防寒用の衣服や寝具などに用いられています。ちなみに最近はバッグをはじめとした防寒目的以外のアイテムにキルティング技法が用いられることも。
そしてキルティング技法を用いて、面裏2枚の生地の間に柔らかい綿が封じ込まれた生地は「キルト」や「キルティング生地」と呼ばれます。
本来は、中綿のズレを抑えて保温性を高める目的で使われていましたが、最近は装飾的な意味合いも強くなりました。
2 キルティングの特徴
2-1 中綿入り加工による保温性
キルティング最大の特徴はやはり暖かいことです。
キルティングはヨーロッパの中でもとりわけ寒い地域に起源を持つとされる生地の1つ。
布と布間に挟み込まれた中綿によって内側に空気の膜を作ることで保温性を高め、内部に熱を留める効果も期待できます。
また、キルティング独特のほっこりとした雰囲気によって見た目でも暖かさを感じることが可能です。
2-2 軽量で丈夫な生地
一般的に生地の強度を上げる場合は、生地自体を分厚くする、もしくは表面に特殊な加工をするしか方法がありません。その結果、硬い部分が出たり、重くなったりとデメリットが出てくることも。
一方で、キルティング生地は軽量な2枚の生地を使って中綿を挟み込むようにして縫い上げるため、とても丈夫で軽いのです。
加えて2枚の生地をステッチ(刺繍)で押さえて作ることで、様々な角度から負荷がかかっても破れにくくなります。
一枚の織り生地よりも断然ヘタリにくく長持ちしてくれるわけです。
3 キルティングのお手入れ方法
キルティング素材は物によりますが、基本的には自宅で洗うことが可能です。
ただし中綿が入っているため、自然乾燥には時間がかかります。雨の日や気温の低い冬場は特に乾きが遅いので、代用品などが無い場合は注意しましょう。
ここからは、自身でもできる簡単なお手入れの仕方と注意点について説明します。
3-1 ハンガー掛けの際の注意点
衣服によっては、着用している時間よりもハンガーに掛けている時間の方が長くなることも多いはず。
その場合、ハンガーの掛け方が重要になってきます。
ポイントはたったの2点。まず、ハンガーに掛ける前にポケットの中を空にしておくこと。そして前ボタンは襟元まで留めること。
この2点を心がけることで、キルティング生地に起こりがちな型崩れやシワを防止することにつながります。
冬物のキルティングアウターをお持ちの方はぜひ試してみてくださいね。
3-2 汚れた際の対処法
もし外出時などの着用時で軽い汚れが付着した場合は、洗濯はせずに、水を軽く含ませたタオルで拭き取ってあげましょう。
ただし、汚れの程度がひどい場合は自分で対処せずにクリーニング業者などに依頼するのが無難です。
自分で洗濯して見た目の汚れを洗い落としても、後にまた汚れがつきやすくなったり、生地表面が剥がれたりと劣化を進行させる原因になることも。
生地の扱いに慣れたプロに依頼することで、生地へのダメージを抑え、結果として大切なアイテムを長持ちさせることにもつながります。
4 世界各国のキルティング生地
ヨーロッパの中でも寒冷地に起源を持つキルティング生地。ですが、キルティング生地自体は世界各地で様々な発展を遂げています。
4-1 ヨーロピアンキルト
ヨーロピアンキルトとは、その名の通りヨーロッパの寒冷地で発祥したキルトのこと。
あらゆるキルトのルーツとなるものです。
ローマ帝国時代、カトリック教団がエルサレムを奪還する際に結成された十字軍の兵士達の防寒具として着用され、ヨーロッパ各地に伝播したと言われています。
4-2 アメリカンキルト
アメリカンキルトとは、18世紀頃、アメリカの富裕層の間で布地の有効利用のため余った布などを繋いで作られたキルティング生地のこと。
暮らしにゆとりが生まれるに連れてとキルトにも装飾性が求められるようになり、色々なモチーフが考案されていました。
ちなみに現在、アメリカンキルトの主流は「ブロックスタイル」という正方形ブロックの模様したものになります。
4-3 ボルチモアキルト
ボルチモアキルトとは、1840年代にかけてアメリカの独立都市ボルチモアに住まう上流階層の女性達の間で作られたキルトです。
ボルチモア・アルバム・キルトとも呼ばれることもあります。
贈り物やお祝いとして作られることが多いことから、鳥、花かご、建物、船をはじめとした風景を表した優雅な模様が特徴的です。
4-4 アーミッシュキルト
アーミッシュキルトとは、1700年代、ドイツからアメリカに移民してきた敬虔なキリスト教系プロテスタントたちによって作られたキルトのこと。
前述したボルチモアキルトのような華やかな柄は一切なく、無地の布のみを使って縫い上げるのが最大の特徴です。
機械文明を遠ざけ厳しい制約の中で暮らすプロテスタントの精神世界が反映されていると言えるでしょう。
4-5 ハワイアンキルト
ハワイアンキルトは、1820年代にイギリス人の宣教師によってキルトの製作方法を伝えられ、それを独自で発展させたものを指します。
大きいサイズの一枚布を8つに折り畳んでカットすることで生まれる、左右対称の模様が特徴です。端切れを利用する習慣のないため、布をあえて細かくカットして使用したと言われています。
パイナップルや花などの模様が施された、南国らしい雰囲気のキルトです。
4-6 ジャパニーズキルト
ジャパニーズキルトとは、日本独自の感性と「和」の素材を用いて製作したキルトのこと。
ただし、日本におけるキルトの扱いはあくまで「趣味」の範囲を超えるものではありません。
ここまでご紹介してきたアーミッシュキルトやハワイアンキルトのように、生活と密接に関わってきたものではないのです。
ちなみに刺し子(※手芸の一分野で布地に糸で幾何学模様の図柄を刺繍して縫いこんでいくこと。)のことを「日本のキルト」と呼ぶ場合もあります。
4-7 アイランドキルト
アイランドキルトとは、フィリピンのカオハガン島という島国で作られたキルトを指します。
色鮮やかな配色と南国チックな明るいデザインが特徴です。カオハガン島を購入した崎山克彦夫妻が、現地の地元住民に広めたのがルーツとされています。
最近は、カオハガン島の観光資源として注目されていて、日本から招かれたキルト作家から現地住民に技術指導が行われることもあるようです。
まとめ
キルティングの特徴や種類についてご紹介してきました。
ヨーロッパの寒冷地方に起源を持つキルティングは、保温性・軽量性・耐久性の三拍子揃った使い勝手抜群の生地なのです。
とは言っても世界各国に独自の製法とデザインがあり、その特徴は国によって大きく異なります。
ボルチモアキルトのように華やかな柄のキルトもあれば、アーミッシュキルトのように一切の模様を施さないキルトもあります。
各国における様々な文化的影響を受けて、キルト生地はこれから先も受け継がれていくことでしょう。