伝統的な「藍染め」の魅力を再発見。その特徴、藍の種類、染めの工程を知る

伝統的な染色方法として有名な藍染め…。

藍染めを施したアイテムには、なんとも言えない”特別感”が宿りますよね。

言葉で言い表すのはちょっと難しいですが、とにかく毎日使い込みたくなる…藍色のアイテムには不思議な魅力があります。

そんな藍染め、実は染色方法の中でもとても奥の深い分野なのです。

今回は数ある染色方法の中でも日本において特に歴史の長い「藍染め」について、原料となる藍の種類、染めの工程、似て非なるインディゴ染めとの違いに至るまで詳しくご紹介いたします。

1 そもそも「藍染め」とは一体何?

藍染とは?

1-1 藍染めとは紀元前3000年から伝わる染色方法

藍染めとは、「タデ藍」と呼ばれる植物の葉っぱを発酵させて作る染料を用いた染色方法のことです。なんとその歴史は紀元前3000年、インダス文明の時代まで遡るとも言われています。

藍染めと聞くとなんとなく「日本の伝統」というイメージが強いかもしれませんが、実は大陸から伝播してきた文化の1つだったのです。

ちなみに藍染めが日本に伝わってきたのは、朝鮮半島との交流が盛んになる飛鳥時代〜奈良時代の頃のお話。

当時、身分を定めた「冠位十二階」の中でも上から二番目の位色も藍色であったと言われています。つまり貴族階級の人々は、その象徴として藍染めの衣服を身にまとっていたわけです。

このことからも、藍染めの衣服は身分の高い人しか身に付けることの許されない特別な存在であったということがよくわかります。

1-2 藍染めの「藍」は薬草としても使われていた

藍染めに使われる「藍」は、染料以外に「薬草」としても重宝されていたと言われています。

例えば藍の全草を湿布にすることもあれば、種子を煎じて解熱・解毒剤として服用することもありました。そのほかにも藍は、殺菌、消炎、止血、虫除け、など様々な用途で使用されていたのだそう。

『神農本草経』『本草拾遺』を始めとした、中国や日本の薬学書にも藍に関する記述が数多く見られます。

しかしながら、産業発達や西洋医学の台頭に伴い、藍の持つ東洋医学的な「薬草」としての側面は次第に薄れていきました。

現在は専ら「染色用の原料」としてのみ扱われています。

2 藍染めの原料となる植物は100種類以上

藍色

藍染めの具体的な工程について説明する前に、まずは原料となる「藍」の種類に関するお話をしておきましょう。

一般的な藍染めには、「蓼藍(タデアイ)」と呼ばれる品種の藍が使われます。ただし、これはあくまで数ある藍の中の1つに過ぎません。藍染めの原料となる色素を含む植物は、なんと世界に100種類以上も存在するのです。

今回はその中から代表的な種類をいくつか絞ってご紹介いたします。

2-1 ウォード藍

ヨーロッパを中心に先史時代から染料として使われてきたことで知られるのが、ウォード藍です。日本語だと「大青(タイセイ)」と表記することもあります。

しかしながらこの次にご紹介する「インド藍」の登場によって、ウォード藍が栽培されることはほとんど無くなってしまいました。

そのため現在は「幻の染料」とも呼ばれるほど希少で、一般的な市場でお目にかかることは滅多にありません。

ちなみにイギリスのファクトリーブランド「TENDER.Co(テンダー)」では、デットストックのウォード藍を使用したデニムを定期的に製造販売しているようです。

2-2 インド藍

インド藍は、その名の通りインドを原産地とする藍の一種で、なんと紀元前2000年頃から既に染料として使用されていることでも知られています。

日本国内では、「木藍」や「ナンバンコマツナギ」と呼ばれることもあるようです。

前述したウォード藍よりも藍の色素を多く含んでいるため、染色しやすいのが大きな特徴です。その扱いやすさゆえ、ウォード藍産業を壊滅的な状況に追い込んでしまったほど。

タデ藍と並んで最もメジャーな品種の1つと言えるでしょう。

2-3 琉球藍

琉球という名の通り、沖縄を中心に藍染めの染料として使われているのがこの琉球藍(リュウキュウアイ)です。

藍でありながら赤紫色の色素を含んでいるという点が大きな特徴の1つと言えるでしょう。そのため、生の葉っぱで染めた時には美しい藍色に、逆に煮詰めた葉っぱで染めた時には上品な藤色になります。

フレッシュの状態で使うか、煮詰めた状態で使うか、それによって異なる色を楽しむことができるわけです。

3 伝統的な藍染めの基本は「天然灰汁発酵建て」

天然灰汁発酵建て

藍染めの原料となる藍のイロハについて確認したところで、ここからはいよいよ「染め」のお話。

伝統的な藍染めは、古くから「天然灰汁発酵建て」と呼ばれる特別な手法が用いられています。なんだか聞きなれないフレーズかもしれませんね。

実はこの「天然灰汁発酵建て」は、別名「地獄建て」とも呼ばれるほど大変手間のかかる染色手法なのです。では一体どのような具体的にどのような手順で「染め」を行なっているのでしょうか?詳しく見ていきましょう。

3-1 タデ藍を発酵させて「蒅(すくも)」を作る

まずは藍染めの染料となる「蒅(すくも)」を作るところから始まります。

蒅作りは、まず粘土を敷いた「寝床」と呼ばれる蔵に、収穫し乾燥させたタデ藍を寝かせます。さらにここから5日おきのペースで水をうつことで、徐々にタデ藍を発酵させていくのです。

藍師と呼ばれる熟練の職人さんが、藍の状態をチェックしつつ最適な発酵具合になるまで調整を続けます。発酵中の藍は、強烈なアンモニア臭を発するため、蔵の中は非常に過酷な環境です。

この工程を経ることで、藍に含まれるインジカンという成分がインディゴ色素へと変化します。

寝床に藍を寝かせてから約100日後、藍染めに欠かすことのできない蒅がようやく完成するのです。

3-2 蒅(すくも)から藍を建てる

藍師さんが一生懸命作った蒅を使って、いよいよ「藍」を建てていきます。

しかしながら藍の主成分であるインディゴは水に溶けない(不溶性)ため、まずは水に溶ける状態(可溶性)にしなくてはなりません。

そのためにまずは蒅をタライの上にあげて細かく砕きます。さらに砕いた蒅に、アルカリの高い灰汁、さらに麸(ふすま)や清酒などを加えて加温し、3〜4日前後かけて発酵させていきます。

この工程で、不溶性インディゴが可溶性のロイコ体インディゴへと変化していくのです。

さらにここからアルカリ度、温度、発色状態などを細かくチェックしながら発酵維持することで、ようやく良質な染液が出来上がります。蒅作りもさることながら、藍を建てるにも相当な手間がかかるのです。

3-3 建てた藍に糸や布を浸して染色していく

蒅から建てた藍を使っていよいよ「染め」の段階へと入ります。

手間暇かけて作り上げた染液の中に糸や生地を浸し、ゆっくりと染色していくのです。しかしながら、ただ染液に浸して放置しておくだけで色が着くわけではありません。

染液に浸した後は一度取り出して、空気に触れさせ「酸化」させる必要があります。この酸化させる工程を経ることによって、あの美しい藍色が生み出されるわけです。

後は「染液に浸す→取り出して酸化させる」という手順を好みの色になるまで繰り返していきます。

非常に面倒かもしれませんが、天然藍を使って染めるにはここまで手間暇かけないといけないのです。

4 藍染めとインディゴ染めの違い

藍染めと混同しやすいのが、インディゴ染めです。

どちらも染色方法の1つであることは確かですが、両者には決定的な違いがあります。

4-1 藍は天然、インディゴは人工染料

藍染めに使われる「藍」は、藍の葉を発酵させて作る蒅をベースにした天然の染料です。それに対してインディゴ染めに使用されるインディゴは、藍によく似た構造をもつ人工的な染料になります。

そのためインディゴ染めのアイテムは、藍染めに比べて手間もかからず比較的安価で手に入るわけです。

もちろん廉価だからと言って必ずしもインディゴが藍に劣っているわけではありません。

4-2 藍は非常に染めにくい

藍のデメリットは、天然ゆえに染めにくいという点です。

インディゴを使った場合、藍染め同様「染液に浸す→取り出して酸化させる」という手順をたった数回繰り返すだけで、ムラなく鮮やかな藍色に仕上がります。

一方で藍を使った場合、インディゴのようにはいきません。しっかりと着色させるには「染液に浸す→取り出して酸化させる」という工程を20回以上も繰り返す必要があります。

しかもインディゴのようにムラなく染め上げることは中々できないのです。

ただし、その自然な色ムラこそ藍の素晴らしい持ち味の1つでもあります。

まとめ

今回は、伝統的な染色方法として知られる「藍染め」についてご紹介しました。

いかがでしたでしょうか?一般的なインディゴ染めとも似ていますが、藍染めの方が圧倒的に手間がかかることがお分りいただけたかと思います。

特に要となる蒅作りと天然灰汁発酵建ては、熟練の職人さんも手を焼く本当に大変な作業です。

今後、お店で藍染めの製品を見かけたらぜひ一度手にとり、その美しい色合い、そしてそれを紡ぎ出す職人さんたちの素晴らしさを感じていただけたらと思います。