私達が普段使用している牛革(カウレザー)製品。
一口にカウレザーと言っても、牛自体の年齢や性別によって質感や性質が全く異なります。
そこで本記事では、数あるレザーの中でも最も有名な「カウレザー(牛革)」についてその特徴や種類、お手入れの方法の注意点を中心に詳しく解説したいと思います。
身近な素材ゆえに知られていなかった、カウレザーという革の持つ奥深さに触れましょう。
1 そもそもカウレザーとは?
カウレザーとは、ご存知の通り牛(cow)から採れた革のこと。
牛は世界的に飼育数が多く、一頭から採れる皮の面積も広く安定した生産量が確保できます。そのため、様々な皮革製品に活用する事ができるのです。
ホースレザーやラムレザーなどレザーの種類は数しれませんが、カウレザーは最も汎用性の高いレザーと表現しても過言ではないでしょう。
ただしあくまでカウレザーとは、牛から採れる革の総称に過ぎません。後ほど詳しくご紹介しますが、一口にカウレザーと言っても牛自体の年齢や性別によって、「ハラコ」や「ブルハイド」など様々な種類に分けることができます。
2 カウレザーの特徴
2-1 上品で繊細な質感
牛革は年齢や性別、採れる部位、なめしを始めとした加工方法によっても革の質感が大きく変わる多種多彩な革です。
中でも特筆すべきは、その上品で繊細な質感。一般的なカウレザーの表面はシワが少なく滑らかな質感をしているので、上品な雰囲気を楽しむことができます。
また加工方法によっては更に違った質感を楽しむことができるという点も大きな特徴の1つ。例えば、生産量の多いスエードやベロアといった「起毛革」という表面に細かな毛が立っている革製品を生み出すことも可能です。
2-2 丈夫で長く愛用できる
カウレザーのほとんどは繊維組織も平滑で均一なので、強度と耐久性にとても優れています。
ただし牛の性別や年齢、採れる部位などによってその強度は異なるという点は要注意。
例えば、去勢していない雄の成牛の革を使用した「ブルハイド」は非常に硬く大変丈夫である一方で、生後6ヶ月以内の子牛から取れる「カーフレザー」は繊細な質感ゆえに耐久性の面ではブルハイドに劣ります。
2-3 経年変化を楽しめる
カウレザーは長く使い続けているうちに、日光や手の皮脂などで色あせ、経年変化を起こします。
使い込む毎に色艶が増していくことでいつのまにか「自分だけの独特な風合い」に。カウレザーの経年変化には、持ち主のライフスタイルがダイレクトに反映されます。
最初の使い始めは少し固く扱いづらいと感じることもあるでしょう。しかし使用していくうちに段々と馴染んでくるので、より深みのある雰囲気を醸し出してくれるはずです。
3 カウレザーの種類
カウレザーは、牛自体の年齢や性別に応じて6つの種類に分けることができます。「牛革」という単語1つでひとくくりにされてしまいがちですが、実は種類によって質感も風合いも大きく異なるのです。
ここでは、種類毎の特徴について詳しくみていきましょう。
3-1 ハラコ
ハラコとは、出産前に死亡してしまった雌の成牛のお腹にいた子から取れる皮のこと。
皮表面の傷はとても少なく、表面に立つ短く薄い毛が特徴です。胎児ゆえに、原皮も小さく少ないことから希少価値は非常に高くなります。優れた質感が魅力的なハラコですが、汚れや傷に弱いというデメリットも…。
少し引っ掻いたりするだけで傷が付いてしまうため、扱う際は注意が必要です。また、ハラコは水にもとても弱いので、雨天時での使用は避けた方がよいでしょう。
3-2 カーフ
カーフレザーとは、生後6ヶ月以内の子牛から取れる皮を加工した物を指します。他の牛革と比べて、肌目がとても細かく程よい柔らかさがあるのが特徴です。
一般的に牛は歳が重ねるにつれ、革が厚く硬くなっていき表面に大きめの毛穴が目立ち、肌目が粗くなっています。
一方で、カーフレザーは人間の赤ちゃんと同様に肌にシワや毛穴がほとんどなくスベスベとした質感も特徴の1つ。皮自体が薄く柔らかいので、様々な製品に活用できます。
ただし、デメリットとして薄くて柔らかい素材が故に耐久性の低さが玉に瑕。強く引っ張ったりすると破れてしまう恐れがありますので丁寧に扱う様心掛けましょう。
3-3 キップスキン
キップスキンは、生後6ヶ月〜2年以内の中牛の皮のこと。
先ほどご紹介したカーフと比べるとややキメが細かく滑らかで厚みもあります。もちろん成牛と比べると薄いですが、繊維密度がかなり高いので耐久性も抜群です。
ただし、キップスキンもまだ子牛の皮を使用しているため、傷付きやすいのがデメリット。また、水にも弱いため雨天での使用は出来るだけ控えた方無難です。
3-4 ステアハイド
ステアハイドとは、生後半年以内に去勢され、さらに2年以上経過して成牛になった雄牛の皮を加工したもののこと。
雄牛は去勢することで気性が穏やかになり、雄同士の喧嘩が少なくなります。そのため成牛の皮でありながら、体にできる傷が少なく適度に上品な質感もステアハイドの魅力です。
また程よい厚みがあり耐久性に優れ、様々な用途に使用することが出来ます。
ちなみにステアハイドは、食肉用として飼育されていた牛の副産物。安定した品質で需要も供給も多いため、最もメジャーな牛革と言っても過言ではないでしょう。
3-5 カウハイド
カウハイドは出産経験のある、生後2年を経過した雌牛の革を指します。
こちらはほぼ同じ年齢の革を使ったステアハイドに比べて薄いですが、柔らかくキメ細かく汎用性が高い素材です。
成牛のため程よい厚みと丈夫さを持っており、「カーフ」や「キップ」に近い質感があり高級感を与えてくれます。私たちの身近なレザーバッグやお財布に多く使われています。
3-6 ブルハイド
ブルハイドとは、去勢をせずに生後3年以上を経た雄の成牛の革のことです。
ブルハイドは、牛革の中でも一番硬く丈夫ですが、その分革自体の柔軟性は低い上に傷がシワが多いというデメリットも。硬さゆえに加工もしづらいため、市場にはあまり出回りません。
他の牛革と違ってキメと繊維組織共に粗いので、起毛してベロアにしたり、革の底革や工業用ベルトなど多く利用されています。
4 カウレザーの部位毎の特徴
前の章では、牛自体の性別や年齢によって変化するカウレザーの種類について解説してきました。
実は、これだけではカウレザーの奥深さを知るには不十分です。カウレザーは前述した「種類」に加えて、その皮の採れる「部位」についても知る必要があります。
つまり「種類」と「部位」の2軸で考える必要があるわけです。
一般的に使用される部位は、ネック、ショルダー、ベリー、バットの4つ。ここからは、それぞれの部位ごとの特徴について詳しくみていきましょう。
4-1 ネック
ネックとは首の部分のから採れる皮のことで、皮の厚さはこの部位が最も厚くなっています。
首の部分は生命維持にとって非常に重要な頸動脈が通っており、それを守るために皮が分厚くなっていることが理由です。
ただし、その分厚さゆえにかなり扱いづらく、採れる面積も小さいのであまり市場に出回る事はありません。
4-2 ショルダー
ショルダーとは牛の肩の部分から採れる皮のこと。
肩は牛が最も動かす部分でもあるので、他の部位と比べて柔軟性に優れた皮が採れます。
また、繊維の密度がとても細かく、強度があり丈夫です。そのため、靴の中敷や馬具やベルトなど強度と丈夫さを必要とする製品に多く利用されています。
4-3 ベリー
ベリーは牛の腹部から採れる皮のこと。
他の部位と比べて繊維束の密度が低く、皮の厚みが最も薄く柔らかいという点が大きな特徴です。加工もしやすいため、主に靴を始めとしたアイテムの素材として多く利用されています。
ただし、その薄さと柔らかさゆえに耐久性は他の部位と比べても低く、強度を必要とするような製品にはあまり向きません。
4-4 バット
バットは牛の臀部から採れる皮ことを指します。
この部分は傷が少なく繊維束の密度が高いため、丈夫で安定した厚みがあります。ここまでご紹介してきた4つの部位の中で、一番使いやすい部位と言っても過言ではないでしょう。
また面積も広く取れる量も多いため流通しやすく、革製品の主役ともいえるくらい幅広いレザー製品に使用されています。
5 カウレザーをお手入れする上での注意点
ここまでご紹介したように、カウレザーにはたくさんの種類があります。
種類や部位に応じたメンテナンスについて考えると頭を抱えてしまいそうですよね。
しかし、用意すべきお手入れグッズは意外とシンプル。それは「防水スプレー」、「クリーム」、「馬毛ブラシ」の3点です。以下では、各お手入れグッズの基本的な使い方について確認していきましょう。
5-1 まずは防水スプレーで水濡れから守る!
カウレザーを始めとしたレザーアイテムの弱点は「水」と「湿気」。そのため、防水スプレーはカウレザー製品にとってまさに必須アイテムです。
使い方は簡単で、レザー表面の20〜30cm離れた所から軽く吹きかけるだけ。これをするだけで、カウレザーの弱点でもある水を防ぐ事ができ、シミやカビが出来にくくなります。
新品のレザーアイテムを購入したら、まずは防水スプレーを吹きかける癖をつけておいた方が良いでしょう。ただしスプレーの効果は永続的なものではありません。
できれば月に1回を目安に、スプレーしてあげると良いでしょう。
5-2 クリームを用いて丁寧にケアを
革製品で1番大事なお手入れといえばクリームを使っての栄養補給です。ですが、クリームといっても様々な物があり、どれを使えばいいか悩まれることでしょう。
そこでオススメするのは、「デリケートクリーム」と「乳化性クリーム」の2点です。
- デリケートクリーム…塗る事でシミやカビを防止するクリーム。光沢感を与える効果はない。
- 乳化性クリーム…皮革へとダイレクトに栄養を与えてくれるクリーム。潤いを与える効果も期待できる。
ポイントは「光沢感」の有無。
製品によっては光沢は必要ない場合もあります。その場合は、デリケートクリームを使うと良いでしょう。逆に光沢を出したい場合には、乳化性クリームが最適です。
使い方はとても簡単!クロス(布)に少量とって全体に満遍なく塗り込むだけ。ムラができないよう、細かい部分までしっかりと浸透させることが大切です。
3 馬毛ブラシで仕上げる
馬毛ブラシは、レザーの表面についたちょっとしたホコリや汚れを落とす時や、クリームを全体にムラなく浸透させる際に使用します。
使う際は軽くブラシで払うだけ。ただし、この時に強く擦ったりすると傷が付いてしまったりしますので注意しましょう。
力を込めずに、表面をさらっと撫でるようにして扱うのがポイントです。
また今回ご紹介したのは、カウレザーの一般的なお手入れ方法に過ぎません。ここまで解説してきた通り、カウレザーには種類や部位によって質感も大きく異なります。
カウレザーの性質に応じたメンテナンスを心がけることも大切です。
まとめ
カウレザーは、皮革製品では一般的に多く使われている素材です。年齢、性別、部位によって皮自体の性質も異なるため、多種多様な製品に使用できます。
また、カウレザーは数多くあるレザーの中でも、経年変化を長く楽しめるという特徴があり、独特の風合いと上品な質感を感じさせてくれます。
ただし、お手入れもしっかり行わないとシミ、カビ、ヒビ割れも起こしてしまう可能性も。
またカウレザーの類によってお手入れ方法が変わってきますので、レザーの性質や特徴に応じたお手入れをしっかりとするように心掛けましょう。