伝統ある染色技術「草木染め」って何?特徴、工程、色ごとの原料までご紹介!

伝統的な染色方法の1つとして知られる「草木染め」。

効率や均一性を重視し、合成染料を使うのが主流となっている昨今、あえて植物や果実など天然原料を使って染色を行う草木染めが再び注目されています。

しかしながら、私たちの身近にある製品の多くは合成染料で染色されていることが多いため、草木染めのアイテムを目にする機会はほとんどないかもしれません。

今回は、お目にかかる機会の少ない「草木染め」について、その歴史や特徴、伝統的な染めの工程から草木染めに使われる原料に至るまで詳しくご紹介します。

1 そもそも「草木染め」って何?

草木染め

1-1 天然の原料を使用した染色方法「草木染め」

「草木染め」とは簡単に言ってしまうと、植物や果実など天然の原料を使用した染色方法のこと。草木を煮出した汁で布地を染め上げることで、独特の色合いを表現できるという点が大きな特徴の1つです。

しかし最近は人工的な「合成染料」を使うことが多いため、目にする機会はほとんどありません。

よくインディゴカラーのデニムを「藍」を使った草木染めだと思っている方もいらっしゃいますが、デニムに使われている染料のほとんどはインディゴと呼ばれる合成染料。

天然の「藍」を使って染めているデニムは市場にほとんど流通していないのです。

草木染めを使った製品は貴重なため、値段もかなり高めに設定される傾向にあります。

1-2 草木染めの歴史は縄文時代まで遡る

今でこそ合成染料を使って均一かつ効率的に染め上げることができますが、かつては糸や布地を染める際、草木を使って染色する他ありませんでした。

日本における草木染めの歴史は諸説ありますが、縄文時代には植物を使って染色していた形跡があることから、少なくとも縄文時代には草木染めが既に行われていたと考えられています。

時は流れ、染色文化が一気に花開き始めたのは飛鳥時代の頃。

朝廷に仕える臣下(貴族)の身分について定めた「冠位十二階」が制定されると、身につける衣服の「色」によって身分の位を分けるようになりました。

このことからも、当時から草木染めの布地は位の高い人間しか手にすることのできない特別な代物だったということが見て取れます。

2 草木染めの特徴

草木染めには、一般的な合成染料にはない以下の3つの特徴が挙げられます。

2-1 自然なムラや奥行きのある色合いを表現できる

草木染めの大きな特徴といえば、やはりその自然な色ムラと奥行きのある色合いです。

植物から抽出した染料には様々な色素が含まれているため、ムラなく均一に染まることはありません。この不均一さが草木染め独特の奥行きを生み出しているわけです。

物によって色の仕上がりも変わるため、草木染めで染色したアイテムは必然的に世界に1つだけの色合いになります。

一方で、仕上がりの均一さや安定を重視する合成染料ではこの絶妙な色合いを表現することはかなり難しいと言えるでしょう。

2-2 使い込むことで経年変化を楽しむことができる

草木染めで仕上げたアイテムは、使い込むごとに経年変化を楽しむことができるという点も大きな魅力の1つです。

使っていくうちに徐々に色に深みが増していったり、部分的に色褪せたり、持ち主や着用者のライフスタイルがそのままエイジングとして反映されます。

草木染めを施した新品のアイテムと5年、10年使い込んでいるものとでは色の深みも全く違うものです。

色合いのみならず使い込むごとに移ろう美しい表情の変化もまた、草木染めのもつ素晴らしい魅力と言えるでしょう。

2-3 自然の染料を使うため環境に優しい

草木染めは合成染料による染色に比べて色々と手間がかかりますが、環境に優しいというメリットもあります。

「植物を沢山摘み取って染料にしているのだから環境には良くないのでは?」と思われるかもしれませんが、実は草木染めに消費する植物の量はそう多くありません。

その上、染料を作る際に有害な化学物質などもほとんど発生しないため排水もとても綺麗です。

持続可能性の高い社会の実現にも、草木染めは一役買ってくれることでしょう。

3 伝統的な草木染めの主な工程

3-1 染液作り

まずは染めに使う「染液」を作ります。

この染液の作り方は草木染めに使用する原料によって異なりますが、基本的には植物を鍋でじっくりと煮出して色素を抽出することが多いようです。

一度抽出したものはさらに木綿布などで丁寧に濾し、それをさらに煮出すことでピュアな色素のみを抽出します。

3-2 地入れ

作ったばかりの染液にいきなり布地を浸したりはしません。

まずは染めを行う布地を50度前後のお湯に浸す「地入れ」と呼ばれる工程を行います。この地入れを行うことによって、極端な染めムラを防止することができるのです。

お湯に浸した後は絞らずそのまま染色の工程へと移ります。

3-3 染色

最初に作っておいた染液の中に地入れした布地を浸す「染色」の工程です。

布地の原料に応じて温度・濃度を細かく調整しつつ、染液の中で布地を動かし続けます。温度や濃度は染液の原料によっても変化するため、見極めには高度な技術が必要です。

ある程度色が移ったら一度水洗いを行い、染まりつかず表面に付着しているだけの色素を落とします。

3-4 媒染

媒染」は、植物染めの中でもっとも重要な工程です。

実は先ほどの染色の工程だけで終えてしまうと布地に色素が定着しません。染色を行なった布地は、媒染剤を溶かした媒染液と呼ばれる液体の中に浸して、しばらくの間動かし続ける必要があります。

この工程を経ることで、ようやく布地に色素を発色・定着させることができるのです。ただし、目的の色合いを作るために3と4の工程を何度か繰り返す必要があります。

媒染を終えた後は、水洗いで媒染液をしっかりと落とします。

3-5 乾燥

媒染が終わったら仕上げに生地を風通しの良い場所でしっかり乾燥させていきます。

ここで重要なのは、水気をきるために生地を絞ったりはしないということ。絞ることによって色に不自然なムラが出てしまう可能性があるからです。

ただし、あえて表情を出すために絞ることもあるのだとか。

いかがでしょうか…。草木染めって意外と工程が多く、時間のかかる染色方法なのです。

4 草木染めに使われる代表的な原料一覧

では具体的に、草木染めにはどのような原料が使用されるのでしょうか?よく染色の原料として使用される植物を色合いごとに詳しく見ていきましょう。

4-1 【黒色系】五倍子・矢車附子

ベースとなる黒色系の草木染めに使用されるのが、五倍子(ごばいし)矢車附子(やしゃぶし)です。

五倍子は、ヌルデの木の組織が発達異常を起こすことで出来る「虫こぶ」のことで、古くから日本でも「お歯黒」の原料として使われてきました。

一方で、矢車附子はどちらかというとグレーに近く、矢車附子の木から取れる熟した実をしっかりと乾燥させてから使います。

4-2 【茶色系】栗・コーヒー豆

茶色系の草木染めに使用されるのが、みなさんお馴染みのコーヒー豆です。

特に栗はとても使い勝手がよく、果実の部分はもちろん、樹皮、葉っぱ、触ると痛いイガの部分に至るまで余すことなく染料として使用することができます。

コーヒー豆は粉末状にしたものや使用後のカスなどを染料として利用するのが一般的です。栗よりも薄く淡い茶色の仕上がります。

4-3 【赤色系】茜・蘇芳

鮮烈な赤色系の草木染めには、古くから茜(あかね)蘇芳(すおう)と呼ばれる植物が使われてきました。

中でも多年生つる草の茜は、日本の旭日旗の赤の部分を染める際にも使われるほど由緒のある染料です。ちなみに茜は、赤色系の中で最も古い染料として知られています。

一方で蘇芳の歴史も非常に古く、平安時代頃から女房装束を染める際に使われていたほど。煮出し方で、赤色〜紫色まで美しい色合いを見せてくれるのが特徴です。

4-4 【青色系】藍・臭木

深みのある青色系の草木染めには、藍(あい)臭木(くさぎ)といった植物が使用されます。

藍はみなさんお馴染みの「藍染め」の原料で、蓼藍と呼ばれる藍を発酵させ蒅(すくも)を作る「天然灰汁発酵建て」と呼ばれる手法が有名です。

また知名度で劣りますが、臭木も藍同様に青色の染料として使われる植物の1つ。藍よりも薄くどちらかというと水色に使い淡い色合に仕上がります。

4-5 【黄色系】黄肌・槐

発色の良い黄色系の草木染めには、黄肌(きはだ)槐(えんじゅ)と呼ばれる草花が使われます。

黄肌はミカン科の樹木で、実は日本全土に数多く自生しています。樹皮と葉っぱが染料になり、主に藍と混ぜて緑色を作るときに使われることも。

槐は、中国を原産とするマメ科の高木で、主に花の部分を染料として利用します。黄肌よりも明瞭で濁りのない色味が特徴的です。

4-6 【緑色系】蓬

緑色系の草木染めは意外と少なく、挙げるとするなら蓬(よもぎ)くらいでしょうか。

蓬は、よもぎ餅といった食べ物だけでなく実は染料としても使うこともできます。淡く優しいモスグリーンの色合いに仕上がるのが特徴的です。

他にも、複数の草木から抽出した染液を混ぜて意図的に緑色を作ることもあります。先ほども触れましたが、例えば黄色系の草木染めに使われる「黄肌」と「藍」を混ぜて緑色を作る方法もよく行われるようです。

まとめ

今回は、植物をはじめとした自然由来の染料を使って染め上げる伝統的な「草木染め」の特徴、工程、原料を中心にご紹介しました。

人工的な合成染料が主流となっている今、草木染めを使った製品を展開するブランドはそう多くありません。

合成染料に比べて製造に手間がかかるため、値段も高値になる傾向にあります。

しかしながら、微妙な色の濃淡や奥深さは草木染めにしか表現できないものです。染め上げられた糸や布地には、地球が大切に育んだ植物たちの命が吹き込まれていると言っても過言ではないでしょう。

もしどこかのお店で草木染めの製品を見つけた時には、本日ご紹介した内容を思い出して、一度手に触れてその素晴らしさを確かめてみてくださいね。